2025年に入り、明らかに風力市場の風向きが変わったと感じます。これまでイケイケ成長期モードだった風力市場が、成熟期を迎えることになく衰退期に転換してしまうのでしょうか。日本の風力市場の失速の背景と今後について、思考実験してみました。
日本の風力市場の失速の背景
三菱商事による洋上風力ラウンド1の撤退は、風力産業失速の象徴的なニュースでした。風力産業が黎明期ではなく衰退期の間違いではないかと思うほど失速したのは、なぜでしょう。
1.資材高騰
ロシアのウクライナ侵攻に伴い、欧州、とりわけ原発をやめてロシアの天然ガスに依存していたドイツを中心に再エネへの転換需要が高まりました。
また、コロナ禍とその後のサプライチェーンパニックの影響もあったかもしれません。世界的に鉄鋼価格も急上昇しています。
2.陸上風力のFIT期限
陸上風力の2028年問題、いわゆるFIT期限切れです。これまでの陸上風力の好調は、FIT期限前の駆け込み需要だったのかもしれません。それが過ぎたら、資材高騰が続く中、新規開発案件は減り、既存発電所のリパワリングも採算性が微妙になりそうです。
発電量の上振れは期待できないながらも、蓄電池を併設することで容量市場にいいタイミングで売電することで売電収入を上げることで、なんとか採算を確保するのでしょうか。データセンター事業者による再エネ電力需要はまだ旺盛なようなので、コーポレートPPAにも期待です。
3.民主党政権時のむちゃくちゃなFIT価格による再エネ賦課金のつけ
民主党政権のときに太陽光発電に42円/kWhというむちゃくちゃなFITを実施し、国民の再エネ賦課金負担が急拡大してしまいました。そのあおりで、政府やMETIに賦課金を抑えるというドライバーが働き、FITをなだらかに収束させるという道筋が消えました。
ひとえにもともとのFITがバカ高く、FIT開始当初に太陽光に参入した会社を儲けさせただけの悪政でした。私たちが払っている再エネ賦課金の内訳は公表されていないものの、エネ庁の資料「国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案」に示されたFIT認定量と導入量から想定すれば、その大半が太陽光に使われていて、風力はせいぜい3~5%程度といったところでしょうか。風力産業は太陽光に比べれば、たいしてFITの恩恵を受けていません。
本来であれば、FITやFIPはインフレの今こそ打ちたい施策なのに、デフレのときに馬鹿みたいに打ち尽くしたので、いま打てなくなってしまいました。
そんな風力作業は、今後どうなるのでしょうか?
日本の風力の今後
これは、私個人の思考実験です。
1.陸上風力
国内の陸上風力は、蓄電池を追加し容量市場に売るビジネスかデータセンターへのコーポレートPPAにシフトするでしょう。既存の陸上風力については、できるだけ延命して時間を稼ぎ、中国メーカーの日本市場進出を待って、リパワリングを狙うのかもしれません。
前述の通り、中国メーカー解禁と国内サプライチェーン形成はトレードオフ関係にあります。では、中国メーカーに、国内サプライチェーン形成に協力してくれる可能性はないのでしょうか。
中国メーカーにとっては、うるさいこと言わずにたくさん買ってくれるグローバルサウス(東南アジア・アフリカ・中東・中南米)が優先です。市場が小さいくせにごちゃごちゃ注文をつけてくる日本は後回しにしたいはずです。中国メーカーが、国内サプライチェーン形成に協力してくれる可能性はないのでしょうね。
むしろグローバルサウスで競争力を失っている欧州メーカーにとっては、欧州、北米、北東アジア、インド、オセアニアぐらいに売り先が限られてくるはずなので、欧州メーカーのほうが日本でのサプライチェーン形成に協力してくれる可能性があるかもしれません。
2.洋上風力
国内の洋上風力は、CAPEX、OPEXともに高く、容量市場への売電やコーポレートPPAを見込んでも、採算は不透明な状況が続くでしょう。一般海域は発電容量が大きく、蓄電池容量が追い付かないので、容量市場への売電ビジネスが見通しづらいかもしれません。
政府は、エネルギー安全保障だけでなく、洋上風力が国内産業の育成につながるという建付けで洋上風力に資金を補助しています。ところが、国内サプライチェーンを追求すれば、やはりコスト高に向かいます。中国からの調達と国内サプライチェーン形成はトレードオフの関係にあります。
例えば、日韓台の3地域サプライチェーンぐらいに広げたら、どうでしょうか。
3地域で最も市場展開の遅い日本に協力するメリットが台湾にないでしょう。すでに洋上風力のタワーと基礎の生産能力が大きい韓国とこれからタワーや基礎の生産能力を上げていきたい日本ではやはり話が合わないでしょう。ダメか。
いまの資材高騰が続けば、着床式でさえ火の車ですから、浮体式は夢のまた夢でしょう。
鉄の消費量を基礎重量で考えても歴然です。15MW風車に対して、モノパイルなら2000t前後、ジャケットなら2500~3000t、セミサブ浮体なら5000~6000tいったところでしょうか。
浮体式は、1風車あたりに倍の量の鉄を使う上、浮体のアンカリングなど据え付け工事の手間も多い以上、着床式の1.5倍の建設費はかかるでしょう。着床式が商売にならない間に浮体式が商売になると考えるのは、お花畑すぎます。
よほど画期的な技術革新か急激な資材価格の下落でもない限り、浮体式は着床式の重力式基礎と同じく、技術的に可能でも収益性のない技術のままでしょう。
では、なぜ中国は浮体式も展開しているのか。
中国は需給に関係なく補助金じゃぶじゃぶで、むちゃくちゃに製造するデフレ経済です。だから、中国国内では浮体式が当面は成立するでしょうし、そのおかげで浮体式の技術も世界一になるでしょう。
しかし、そんなのサステナブルではないので、いつまで続くんでしょうね。
思考実験しきれていない積み残し
ここまでざっくり市場環境だけをネタに思考実験してみました。この思考実験では、「制度設計」という重要なピースが抜けています。
「エネルギー安全保障」と「インフレ抑制」の観点からいえば、輸入エネルギー比率を下げるために再エネ比率を上げるべきですが、再エネの中での風力の位置づけが微妙です。
再エネとひとくくりにしてしまうと、太陽光と風力の性格の違いが見落とされます。
太陽光は再エネの中でも開発期間が短い(わりと簡単にできる)のに対し、風力は再エネの中では開発期間が長い(かなり複雑でコストも高い)です。風力を再エネの中で戦力化するには、開発期間を短くする(複雑な部分を簡単にしていく)工夫が必須です。
その工夫の方向性は、「技術開発」か「制度設計」の2つしかないはずです。しかし、日本の政策から、この視点は感じられません。制度設計については、ネタがそろったところで思考実験してみようかと思います。

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